バンドマンに村を燃やされている。

日常の潤いに少しでも乾きを!

2020年4月4日。

 

 

太った大きな人間。

 


太った大きな人間は夜になると深い眠りにつく。深く眠ったその体はまるで小さな山のよう。山の頂上であるヘソが、呼吸とともにゆっくり上下する。
しばらくすると体が布団からはみ出るように溶けていく。溶けた体はやがて膨らみ、ちぎれて二人の太った大きな人間になる。

 


二人の太った大きな人間は仰向けのまましばらく眠る。人間が二人になったのだ。疲れているに決まっているだろう。小さな部屋に大きな山が2つ。規則正しく上下に動く。

 


たくさん眠った二人の太った大きな人間は、朝日が昇る少し前に起き上がる。眠っていてかたくなった体を、少しずつ解くように動かしていく。太った大きな人間が、一人で眠っていた部屋に、二人。お互いの体がぶつからないように。慎重に、慎重に。

 


肩が回るようになった。足が大きく上がるようになった。二人の太った大きな人間は、何も言わずに向き合っている。やがてゆっくりと足を広げ前かがみになる。さぁ、見合って見合って。

 


二人の太った大きな人間が、両の手を地面につけたら、のこったのこった。山のように盛り上がった肩がぶつかる。大木のように頑丈な脚が踏ん張る。ばしんばしんと肌を張るたびに空気が波打っていく。

 


やがて大きな地響きがした。二人の太った大きな人間の、片方が床に倒れている。立っている太った大きな人間は、布団に戻り深い深い眠りについた。
窓の隙間から柔らかく鋭い光が入ってくる。朝が来たのだ。床に倒れた太った大きな人間は、光に溶けるように消えてなくなった。しばらくして、布団がもぞもぞと動き出す。

 


やわらかい布団がガバリと勢いよくめくられ、中から太った大きな人間が目をこすりながら出てくる。冷たい水で顔をバシャバシャと洗い、着替えを済ませ、朝ごはんを食べる。こうして1日が始まる。

 


太った大きな人間は、毎夜相撲を取ることも、自分が一番相撲が強い自分だということも気がついていない。だってずっと深い眠りについていたんだから。